人形劇団プーク 演出の井上幸子さんを囲んで 

2015年3月24日(火)、ひなた村にて、人形劇団プークの井上幸子さんをお招きして「おれはママじゃない!」事前の集いを行いました。

井上幸子さんはプークに入って41年目、入団当初は役者さんとしてご活躍されていましたが、現在は演出家として、子ども向けの人形劇だけでなく、大人の芝居も手がけておられます。29歳の息子さんがいらっしゃって、子ども劇場の会員でいらしたこともあるそうです。ちなみに、町田子ども劇場の1978年の設立例会がプークの『11ぴきのネコ』でした。近年では2年前の『ねずみくんのチョッキ』が記憶に新しいところです。

事前交流会の内容をかいつまんでご紹介致します150324_1048~01

●プークってどんな劇団?

プークは今年で創立86周年、1929年(昭和4年)に創立されました。東京の旧制開成中学校に通っていた学生の中で美術や人形劇に興味を持った人たちがサークルで始めたものが前身です。ちなみにこの年は世界大恐慌が起きた年で日本の政情も暗く不安定な時代でした。

プークの名前の由来は、エスペラント語の「ラ・プーパ・クルーボ(LA PUPA KLUBO)」からきていて、ラは英語でいう冠詞、プーパは英語のパペット(人形)、クルーボはクラブ、訳すと「人形クラブ」という意味になります。プーパ・クルーボのそれぞれの頭文字を取って「プーク」と呼ばれるようになりました。

プークが劇団名をエスペラント語で付けたことは、「子どもと大人の幸福と世界の平和に貢献できる人形劇を創りたい」というプークの決意表明で、国粋主義や軍国主義の強かった当時の日本社会にあって、非常に勇気のあることでした。戦時中は当時の代表者だった川尻泰司さんが投獄されるなど、長く弾圧を受けます。ようやく再建されたのは戦後1946年です。このプークの歴史は1971年に新宿に建てられたプーク人形劇場の壁面にレリーフとして彫られているそうです。

ちなみに、エスペラント語とはポーランドのユダヤ人家庭に育った眼科医のザメンホフが作ったものです。彼は、戦争を避け平和を長続きさせるためには、多くの人々が国境を越えて話し合い理解し合うことが不可欠であり、そのためには共通する言語が必要だと考えました。そこで、人々の国語を越えた共通のことば「エスペラント」を考案しました。

プークが初めて子ども向けの人形劇を本格的に手がけたのは、1964年(東京オリンピックの年)で、「エルマーの冒険」が最初でした。この作品を1966年に福岡で公演したことが発端となり、そこから全国に子ども劇場運動が広がっていったのです。

●作品の話150324_1108~02

元々プークは大きなホールでやる作品を得意としていましたが「舞台設備のない会場でも可能なもっと小さな作品」をという需要を受け、生まれた最初の作品が「プー吉・チビのミニミニ劇場」だそうです。小ホール小劇場で演じる部門をミニ班と呼びますが、役者3名+照明1名、計4名で全てこなします。3人という少人数では、例えばワニ役、ヒヨコ役で既に2名出ずっぱりな訳で、残りの1名は進行役やその他動物など何役もこなすので技量が問われます。この制限でこそ生まれてきた新しいスタイルを是非観て欲しいとのことでした。

プー吉・チビのミニミニ劇場は、『開幕劇』と、秋田音頭にのせて送る『プー吉・チビの傘踊り』(音楽にすごく子どもが反応するそうです!)と、『ショジョ寺のタヌキ囃子』と、『車人形南京玉すだれ』の4パートに分かれた作品で、15分程度の短い作品です。音楽が中心でほぼせりふが無く動きだけで面白さを伝えます。人形の持ち手をひっくり返すと早変わりするのですが、その動きに是非注目下さいとのこと。150324_1110~02150324_1108~01150324_1110~01150324_1108~02また、車人形といえば八王子車人形がすぐ連想されますが、プークの『車人形南京玉すだれ』は、乙女文楽の系統を組むのだそうです。

乙女文楽とは、車人形と同じく人形浄瑠璃から派生した伝統人形芝居で、「文楽」が男性3人で一体の人形を操るのに対し、「乙女文楽」の遣い手は一体につき女性1人です。そのため、人形の仕組みと操り方にさまざま工夫がなされ、人形と遣い手の動きがより一体化されたリアルな表現が可能となっています。

一人遣いの人形というのは車人形と同一なのですが、操作方法に違いがあるそうで、車人形は、遣い手の腰掛ける木箱の車の仕掛けに特徴がありますが、乙女文楽の特徴は、人形の頭の両鬢と遣い手の頭とを紐で結んで人形を胴金と呼ばれる軸に差し込んで操作するところだそうです。このあたりは話だけでは分かりづらいので舞台でご確認下さい。

おれはママじゃない!は、宮本忠夫さんの絵本が原作で、2002年に生まれた作品です。当時はアフリカで内戦が続いていて「全ての子どもにとって安心して眠れる夜が訪れますように」というメッセージが根底にはあります。登場人物(?)のワニは、「みんなから怖がられている中年男のワニ」なんですが、そのワニにヒヨコがママママと寄っていくユーモラスさと同時に、ヒヨコがワニの胸にほっぺたをつけて心音を聴きながら安心して眠る、その温かな体温が伝わるような作品にしたとのことです。150324_1109~01

●音楽の話

大阪を中心に活躍している「マリオネット」という演奏家が担当しています。ポルトガルギターとマンドリンで編成されていてどこの国の音楽、どの時代の音楽という特徴を感じさせない不思議な世界を創り出しているとのことです。「ひよこの歩いていく足音」、「お日さま、ワニとひよこを暖めてくれる光」をイメージしているそうでそこも注目です。

実際に舞台で用いる人形も触らせて頂いて、その可愛らしさに参加者一同大はしゃぎでした。みんな非常に「目力」が強く、すごーくこっちを見ている……(笑)。プークの人形の顔は表情を豊かにするためにわざとシンメトリーでないように作っているそうです。

作品の話以外にも、NHKの「いないないばあっ!」にご自身が6年間関わっていたことや、戦時中はプークという名前が使えなかったので、「スタジオ・ノーヴァ」という別名でNHKに出ていたことなど興味深いお話も伺いました。現在プークは、劇団部・劇場部・映像部の3つの専門分野に分けられていて、「スタジオ・ノーヴァ」は映像部として、映像関係を全て引き継いでいます(ノーヴァはエスペラント語で“新しい”という意味です)。

また子育てと仕事との両立という話も出て、井上さんはお子さんが6歳の時にレギュラーの役者の代役として九州公演に出た事があったそうです。その間毎日お子さんに向けて葉書を書いていたとのこと、電話ではお互い気持ちが折れてしまうから……という言葉に聞いていた私も胸が熱くなりました。

「人形劇は生まれたての子どもから大人まで楽しむことが出来るけれど、小さな子ほどスッとその世界に入り込める、大人は経験と照らし合わせて観るけれど、子どもは観ること自体が経験となる、観続けることで“いい子”になるかは分からないけれど、“いい大人”にはなれるのではないか」、と言葉をいただき、参加者一同励まされる思いでした。

非常に内容の濃い時間を過ごさせて頂き、当日が益々楽しみです!